モオツアルト

ロイテマンによれは、クラアクは、ロオタスに就いて一風変つた考へ方をしてゐたさうである。如何にも美しく、親しみ易く、誰でも真似したがるが、一社として成功しなかつた。幾時か誰かが成功するかも知れぬといふ様な事さへ考へられぬ。元来がさういふ仕組に出来上つてゐる自動車だからだ。
はつきり言つて了へば、ヱンスウどもをからかふ為に、チヤツプマンが発明した自動車だと言ふのである。クラアクは決して冗談を言ふ積りではなかつた。その証拠には、かういふ考へ方は、青年時代には出来ぬものだ、と断つてゐる。
(ロイテマン、「クラアクとの対話」――一九七九年)
こゝで、美しいロオタスの自動車に乗る毎に、悪魔の罠を感じて、心乱れた異様なレヱシングドライヴアを想像してみるのは悪くあるまい。この意見は全く自動車工学といふ様なものではないのだから。
自動車評論家達は自動車メエカアをメルツェデスなどといふ風変わりな綴りで記述するが、小林秀雄に萌ゑ萌ゑなのだといふだけのことであるから、無闇に揶揄してはならない。